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BUZZ NON-FICTION REPORT「ギア通たちよ、総合シャフトメーカーの技術力と発想を知っておくべきだ。」

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皆様がドライバーシャフトに求めるものはなんだろう。おそらく全員が“飛距離性能”と回答するはずだ。
では飛ぶシャフトとはなんだろう。その答えがこの特集にあることを断言しよう。

今回、取材で訪れたのは長野県駒ヶ根市、日本シャフトが生産の拠点を置く。
日本シャフトのプロダクトといえば主にスチールシャフトを誰もが思い描くであろう。ただ、その想像をこれからはアップデートしたい。
スチールシャフトとカーボンシャフトを製造できる日本で唯一、世界でも有数の総合シャフトメーカーだということだ。

駒ヶ根工場のエンジニアたちはシャフトの全てを知り尽くす。
もちろん“飛距離性能”に必要とされるここでしか生み出せない発想や技術もある。今号では特別に日本シャフト製カーボンシャフトとは何か、ギア通たちに刺さるレポートをお届けしていこう。


撮影=小林 司

取材協力/
日本シャフト駒ヶ根工場
日本シャフトは長野県駒ヶ根市の中央アルプスが見渡せる高台の広大な敷地に生産拠点を置く。ここでは自社設計による最新鋭の専用機を稼働させて、世界に誇る最高品質のスチールシャフト、カーボンシャフトが生産されている。

第1章
試行錯誤の20数年、生真面目で一途な振りやすさの追求

まずは日本シャフトのカーボンシャフト製造の背景を知っておきたい。
1980年代後半、ドライバーヘッドの素材進化やカリスマプレーヤーの圧倒的活躍により一気にカーボンが台頭する時代だ。

インタビューに応えてくれたのは

日本シャフト生産本部 駒ヶ根工場
開発課課長 井上 明久さん

大手メーカーのOEMシャフトで得た確かな経験値

現在のゴルファーにはもう馴染みがなくて当然だが、もともとドライバーヘッドがパーシモンと呼ばれる柿の木の時代はスチールシャフトが全盛だった。しかし1980年代後半ヘッドにメタルと呼ばれる金属素材へと進化したこと、そして尾崎 将司選手がメタル×カーボンのドライバーを使い圧倒的飛距離で勝利を重ねたことで、一気にカーボンブームが巻き起こる。

「とにかく当時、ブラックシャフトと呼ばれたカーボンシャフトが台頭したことで、スチールシャフトは古い、と言う風潮が一気に広がり、私たちもシャフトメーカーとして後発でありながらカーボンシャフトに着手しました。1990年に入ってからはようやくOEMシャフトを受注でき、当時脚光を浴びた人気モデルの純正シャフトを手がけることができた」(井上課長)

時代の人気プロダクトのシャフトを手がけ様々な経験値を得て、90年代オリジナルシャフト「マリスタ」を登場させた。当時、カーボンシャフトは素材や設計が未熟でそのどれもがとにかく硬い性質の中、フレックスをやわらかめにしつつトルク(ねじれ)を下げる「ネオフレックス」を生み出し、粘り強いシャフトを生み出した。

1990年代

日本シャフト初の自社ブランド「マリスタ」で、当時は4名の契約プロのツアーサポートも行なっていた。

「斬新な提案でしたが、当時それを商品化するのはまだ早かったかも知れませんね」と意味深げに井上課長が話す。

ある意味・・・全ての発想が先を行き過ぎた。

2000年には時代が必要とした軽量スチール「N.S.PRO 950GH」が発売される。“軽快で癖がない振りやすさ”が一気に浸透し、脅威のセールスを誇ったことで、日本シャフト=“軽量スチール”という確固たるイメージを世に定着させる。カーボンシャフトの製造ももちろん並行して行われており、2000年には「N.S.PRO GT」が登場。カーボン繊維にニッケル(金属)を合成し、感覚的にスチールシャフトの挙動に近づけた画期的プロダクトだ。

「ドライバーのヘッド素材がチタン製となり、200㎤から300㎤へどんどん大型化を遂げようとしていた。その進化を見据えて、手元側に重心を持ってきたのが『GT』でした」。

2000年

「N.S.PRO GT」発売。ギア通ならこのシャフトのスチールらしい粘り感が根強い人気を誇っていたのはご承知のとおり。

時代の行く末、必ず必要とされる・・・生真面目に振りやすさを追求し、自らでテーマや技術を発想してきた日本シャフトのカーボンシャフトだが、時代に支持されるカーボンシャフトは、むしろ癖のある正反対なシャフトだった。

「2005年には初代『レジオ』が登場、とにかく品質管理や工程にこだわったプロダクトで、追求した特徴は“癖がないこと”。上級者が求めるであろう、スイングやヘッドとの相性を邪魔しない完璧な“癖のなさ”を満たした自信のシャフトだった。しかしその時代にはまだ日本シャフトの“振りやすさ”は評価されなかったですね」。

2005年

初代「レジオ」登場。日本シャフト自信のプロダクトだったが、残念ながら惨敗。世の中に“癖がない”落ち着いた挙動が受け入れられなかった。

ここまでの話をまとめると、日本シャフトというメーカーは常に“振りやすさ”を追求したシャフトを開発してきたわけだ。厳しく言い換えればあまり特徴がないプロダクトは、当時のニーズに受け入れられなかったわけだが、今の2021年に支持されるシャフトは何かと“癖がない”が人気を得ている。ある意味全てが早過ぎたのだ。

つまり日本シャフトというメーカーのプロダクトはマーケティング戦略的ではないことが伺える。あくまで技術者がシャフトとしての“振りやすさ”を一途に追求し、未来を想像し続けてきた生真面目なメーカーなのだ。

日本シャフトでは現在も数メーカーのOEMカーボンシャフトを製造。コンセプトに応じた性能、品質を提供する。

第2章
シャフトで+10ヤード!?
市場のニーズを実現したスチールとのマッチング構想

2005年初代「レジオ」の惨敗により、日本シャフトではある社内革命が起きる。
惨敗のままでは終われない・・・
エンジニアとセールスが初めてタッグを組んだ市場のニーズを組み込んだプロダクトの開発がスタートした。

インタビューに応えてくれたのは

日本シャフト生産本部
駒ヶ根工場開発課主査 藤原 甲介さん

シャフトで+10ヤード、そんなバカな話があるか!

事実は、日本シャフトのカーボンシャフト事業を“暗闇”に彷徨わせることになった。“最高のシャフト”とは何か・・・その答えを見つけるきっかけは、ユーザーの直の声を真摯に聞き入ることができたことだ。

「セールス部も初代『レジオ』の惨敗には、相当悔しい思いをしたのでしょう。試打会や販売店の直の声を徹底的にヒアリングして、私たち開発部に一大決心の提案を持ってきました」(藤原主査)。

それまでの日本シャフトはエンジニア主導でプロダクトを生んできたメーカー。先のページでもレポートする通り、生真面目にシャフトの“振りやすさ”を追求してきた。“振りやすさ”とはつまり癖のないシャフトであり、また競合メーカーらのトレンドもあって市場はその提案に退屈さを感じていた。

「+10ヤード飛ぶものを作ってくれ!とセールスが懇願してきた。シャフトで+10ヤードなんか実現できるか!と、当時は真面目に熱く激論したものです(笑)。ただ、市場が本当に求めるものを作りたい、という想いがあったのも事実。エンジニアとして負けられない戦いがスタートしました」。

飛ぶシャフトとはどんなものなのか、そのテーマを追求していく上で確かな答えに辿り着く。一途に振りやすさを追求してきた、それが何よりの正義だった日本シャフトの開発意思に、今までになかったカルチャーである、“癖”の強いシャフトという新境地に踏み込んでいく決心だ。

「“癖”の強いシャフトとは何だ?その答えは苦心で生み出した癖の強いプロダクト『モーダス3120ツアー』にありました」。

総合シャフトメーカーだから発想できた起死回生の答え

先端が硬く、中間層をやわらかくするといった、これまでにない剛性分布設計で生まれたのがアスリートスチール・モーダスブランドの初代プロダクト「モーダス3ツアー120」。この画期的プロダクトのツアーサービスが、飛距離の出るシャフト“癖”のヒントになった。

「米国ツアーのニーズで開発された『モーダス3ツアー120』は、“圧倒的な癖”を誇った剛性分布であり、実際に多くのツアープレーヤーたちが高い飛距離性能を評価してくれました。アイアンシャフトでありながら飛ぶ、この初めて得たフィードバックを投襲、新カーボンシャフトの求めるべきパフォーマンス像が見えました」。

スチールシャフトの剛性分布設計をカーボンシャフトにマッチングさせるという起死回生のアイデアは総合シャフトメーカーだから辿り着けた。“癖”=飛びという理想を求めた渾身のプロダクト「レジオフォーミュラ」は、日本シャフト史上最大のヒット商品となった。

「高級素材の超高弾性カーボン素材を全長に採用、先端部の剛性を保ちながらフィーリングを良くするためにコアシェルラバーというゴム粒子を組み込んだことで初速性能が向上、フィーリングにも寄与しました」。

当時は高弾性シャフトが一大ブームであり、それらは高級シャフトとして販売されていたが、日本シャフトは35,000円という低価格で販売。同業他社から圧倒的なバッシングを受けたらしい(笑)が、それは圧倒的に飛ぶものを低価格で提供するセールス戦略、日本シャフトの企業精神が勝利した結果だ。

「『レジオフォーミュラ』は飛ぶだけでなく、『モーダス3ツアー120』とのウッドとアイアンの剛性マッチングも実現できた。セッティングの理想化と飛距離を同時に実現できたのは、総合シャフトメーカーとして冥利に尽きる瞬間でした」。

日本シャフト・エンジニアの心得

「私たちは日々、様々なアイデアを設計して、一つのコマとして製品化しています。セールスから要望されたニーズに、その数あるコマの一つの引き出しで応えられるように、それがエンジニアとして求められる心得といえます」(藤原さん)

第3章
結局“振りやすい”シャフトが最も飛ばせる、
現在進行形の結論

“癖”がないシャフトから脱却した開発テーマで超飛距離シャフト「レジオフォーミュラ」を生み出した。
そして現在進行形で続くミッションは飛びのバリエーションを増やしていくことにある。

モーダス3の挙動から最高の飛距離を導き出した
レジオフォーミュラプラスシリーズ

高い手元剛性、中間部をしならせて叩く
MOUDUS3 SYSTEM3 TOUR125/105
=Regio Formula MB+

中間部のしなりから先端剛性で弾く
MOUDUS3 TOUR120
=Regio Formula B+

先端の圧倒的な走り感で飛ばす
MODUS3 TOUR130
=Regio Formula M+

試打会でフィッティングを提案できる3つの個性

先端が硬く、中間部が硬い。そんな「モーダス3ツアー120」独自の剛性挙動とマッチングさせることで生み出した「レジオフォーミュラ」は、その後よりメリハリを強調した「レジオフォーミュラB」に進化。『B』はバット側、手元剛性を意味する。とにかく飛距離性能に優れるが、ある意味“癖”があるシャフトだけに、試打会で合う合わないの症状が、わかりやすく判断できるようになった。次なるミッションはバリエーションを増やすことだ。

「中間部が硬い『M』(ミッド)は『モーダス3ツアー130』の挙動で先端の走り感を強調して高弾道・低スピンを、手元から中元が硬い『MB』(ミッドバット)は『モーダス3システム3ツアー125』の素直なシャフト特性を強調していわゆる癖なく叩ける挙動を、特性化しました」(井上課長)

3タイプの異なるシャフト挙動のバリーションが増えたことで、ウッドカーボンシャフトとしてのフィッティングを試打会で提案できるようになる。また全てに「モーダス3」シリーズとの剛性マッチングさせた設計は、ウッド(カーボン)とアイアン(スチール)の挙動マッチングも積極的に提案できるようになった。

「過去には『GT』シリーズでも、『N.S.PRO 950GH』や『同1050GH』とのマッチングを提案しましたが、時代は聞き入れてくれなかった。時が経ち適切なバージョンが揃うことで、改めて『MB』のような素直な“癖”のないシャフトが評価されるようにもなった。全ては時代を納得させるパフォーマンスとラインナップが必要だったのでした」。
これがきっかけで開発部社員自ら、試打会に出向きユーザー直の声に耳を傾ける。忌憚ない意見を聞き入れ、その反省点を次期モデルに生かす活動だ。

“振りやすい”が最高初志貫徹のスタンス

次期モデルの展望は、「B」「M」「MB」をバージョンアップさせること。開発陣はテーマ、方法論の答え探しが続くが、日頃の活動が功を奏した。

「一つは試打会で得たユーザーの皆様のフィードバックを全て解消したいと考えていました。が、一番の問題は3本の中で一番癖のない挙動の『MB』の改良法。癖のないものをバージョンアップさせることは難しい」(藤原主査)

強みとなったのは、総合シャフトメーカーたる発想、そして技術力だ。スチールシャフトに起きる現象である潰れに着目。シャフトのしなり=潰れが、インパクトエネルギーのロスになることに着目できた。

「扁平復元率はスチールシャフトの製造なくして辿り着けない着眼点でした。潰れの復元力を高めるために、カーボン業者に無理をリクエストして9軸織物カーボンを採用。全長に採用した7軸織物に加え、さらに3タイプのシャフト、全てに異なる高剛性ポイントに9軸織物を+。要所によって16軸というかつてない超高弾性シャフトのプラスシリーズの完成に至りました」。

最も癖のない「MB+」をベースとして開発し、その後に「B+」「M+」に着手。今年の2月に満を持して「MB+」を発売し、「レジオフォーミュラシリーズ」は計6タイプのラインナップを揃え、かつてない磐石の状態となった。今、最も癖のない「MB+」がゴルファーから最高の評価を得て、セールスも好調だ。

「最新にはもちろん最新・最高の設計を施していますが、ゴルファーの立場から言うと最新が最高だとは限りません。だから私たちはこれからも全てのゴルファーをカバーできるラインナップを追求していくのみ。結局、ゴルファー個々“振りやすい”シャフトがいちばん飛ぶのですから」。

“振りやすい”――あくまでも初志貫徹、ブレない開発スタンスが潔い。もうすぐカーボンシャフト市場は新たなラインナップが出揃う。が、日本シャフトはこの製品サイクルに囚われない。時代の流れを無視したスタンスだが、それは次なる時代に必要とされる確かなプロダクトを生み出すためのスタンスでもある。ギア通たちよ、流行はもちろん大切だが、博学を深め、最高のシャフトに巡り会うためにも、日本シャフトが求める“振りやすさ”、改めてその意味をご体感いただきたい。

日本シャフトのプロダクトは、井上明久課長、藤原甲介主査のタッグで開発されている。カーボン、スチールともに開発できる技術者は、アイデアの引き出しを単純に倍以上持ち合わせている。

開発担当者自らが試打会に出向き、ユーザーに直で接する。
次期モデルのテーマに私たちゴルファーの声が活かされているのだ。

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