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今月のゴルフ愛 最後の一滴「OUT BALL」

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社会人の始まりはコンピュータに関わる仕事であった。1980年代のことである。LAN・WAN・I/O・CAD・CAM・・・話題のAIも言葉は既に存在していた。文系出身の僕にとって、略された言葉の意味はチンプンカンプン。「略されていない元の形を知っておけ!」と先輩に叱られた。LANはLocal Area Networkであるから、WANはWide Area Networkとなる。用語は互いのイメージを合わせやすいうえに、打合せ時間も短縮させ、発想すら広がる。だから、根っこから覚えておけ!と言うことだ。

若手社員に抜き打ちのテストを行った。全員がゴルフに関わる仕事をしている。常識問題… のハズだった。

「打ったボールがスライスしてOBゾーンに入った。この場合のOBとは何の略?」

「Out of Bounds(領域の外)」である。この言葉は、境界線が勝敗を左右するアメフト、バスケ、テニスなどでも使用される。しかし、「オービー」と略されるのはゴルフだけのようであり、他のスポーツは「アウトオブバウンズ」または、「アウト」と表現される。

珍解答と呼べぬほどに、間違いの大多数は「Out Ball」であった。確かに、救出不可能な谷底や、棘だらけのアウト領域に向かってボールは飛んでゆく。
「うわぁ!オービーやぁ〜!」彼らの悲痛な叫び声の裏側には、おろしたての白く輝くマイボールが、黄色く変色し、泥にまみれて朽ち果てた姿を累々と晒す墓場へと転がり入る絶望的にアウトな情景が広がっていたのだろう。

「オービー」がゴルフ専門用語となり、「アウトボール」を感覚的正解としても、本来の形を知っておくという些細なコトは、生き方に少しだけ奥行きを与えるような気がする。

今日もまた、絶望的にボールがアウトする。OBしない飛ぶボールを!と姑息に願うこともあるが、もし、そんなボールが開発されるならばゴルフは廃れるだろう。ゴルフは緊張感で出来上がっているのだから。

 

内本浩史(うちもとひろし)
BUZZ GOLF 主筆

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