エレベーターに閉じ込められた。人生初の経験だった。
真っ暗な密室の中、小さなモニターにプロンプトだけが点滅していた。スマホの明かりで「開」のボタンを照らして連打してみた。開かない…。フロアボタンも連打した。動かない。息苦しさが増してくる。地震や故障で停まったのではない。悪いのは全て僕である。
その日、都内にある某協会のAさんを訪ねた。雑居ビルに入ったエレベーターの前には「点検中です。階段をご利用ください」の案内ボードがその先の侵入を拒絶していた。出張用のキャリーバッグにバックパックを背負い、お土産の袋を抱えていた。事務所は8階。階段なぞ使えるわけがない。A氏に電話をした。「今、1階なんですが、エレベーターが点検中で上がれないんですよ。それが、誰もいないんですよぉ~」…と、扉がすぅーっと開いた。「あっ!開きました。ダメモトで乗ってみます」。そして、閉じ込められた。
子供の頃から、ダメ!と言われると高をくくってしまう。「点検してるんだから、落ちることは無いだろう」だし、「何してるんですか!」と叱られても「階段は無理ですよ。お願いします」と頼めばいい。三日前もカップまで軽い上りの3m直線ラインを3パットしてボギーである。「パーは確実や!」と高をくくった結果である。
モニタリングしていた誰かが慌てふためくオヤジを哀れに思ってくれたのか、暫くして扉が開いた。「開きました!」と告げたスマホから、A氏の笑い転げる声が響いていた。
敵対する国の石高を低く見積もって大負けしたことから、「高をくくる」となったとか。秀吉は敵対勢力の財務の「高」をも測った。太閤検地である。還暦を過ぎた我が身の高を測れば、傲慢な暴走老人の始まりが見えた。高をくくりすぎず、謙虚な姿勢を心がけ、今日もドライバーをブン回している。更なる反省が必要なようだ。
内本浩史(うちもとひろし)
BUZZ GOLF 主筆
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