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今月のゴルフ愛 最後の一滴「業師の証明」

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「てっさ(ふぐ刺し)」に「カンナ屑」と、見えないはずの後ろの景色が透けて見えるほどに感嘆するのは技術信奉にみる日本人の特質であろう。薄く均一にスライスする技は、匠の業師の証明である。

「うわぁ!スライスしてもたぁ~!OBやぁ~!」。その滞空時間は左に引っ掛けたチーピン球よりも明らかに長い。長い分、仲間達は「フゥワァ~♪」の大合唱を秋空に響かせて楽しんでいる。

ヘッドがボールに与える回転運動はギア効果として説明される。右利きのスイングは反時計回りであるから、球には時計回りのスライス回転が理に適う。なのに、真っすぐ飛ばすのがゴルフである。シャフト軸線から飛び出したヘッドに重心位置が…… などと、この種の説明はG編集長に任すとして、とにかく球はスライスしやすい。

練習場では誰だってスライスが出る。真っすぐに飛ぶこともあるし、引っ掛けにトップと、結局は「真っすぐに飛ばす」という極めて暗黙的感覚知を自身の主たる身体感覚知にすべく、あーでもない、こーでもないと打ちまくった結果が練習場での球筋である。ある日、唐突にスライスが鳴りを潜めだす…… と、「もうちょっと飛ばせるんちゃうか?」と心の隅に小さな欲望の芽が顔を出す。軽く左に曲がる球の打ち方をネットで調べ、新たな試みを始めだす。気が付いたときには、複雑に絡み合うツタの中で再び彷徨っている。

友人のW君は常に絵に描いたようなバナナカーブでコースを攻める。左のOBゾーンに打ち出した球はキレイな弧を描いてフェアウェイセンターを捉える。彼は人生のあらゆる局面で己が磨いてきた技を駆使する業師である。そう言えば、S君も。スライサー系にはクセモノ揃いの業師が多い。対し、フッカー系は自己の欲望に正直な単純者の集まりである。我が事である。以上、偏見でした。

 
内本浩史(うちもとひろし)
BUZZ GOLF 主筆
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