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今月のゴルフ愛 最後の一滴「金・銀・銅… そして、鉄」

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セリーヌ・ディオンの絶唱から物語は始まった。国がワンチームとなるオリンピックは、感動と歓喜、そして、あと一歩…と、多くの物語が紡ぎ合って瞬間を永遠の物語とする。

銅メダルを手に笑顔で表彰台にのぼった松山英樹選手も、あと一歩で涙を吞んだ山下美夢有選手も、最後の一打まで僕らを楽しませてくれた。あらゆる競技で生まれる、まさに「有り難い」物語の数々に夢中になった。

さて、そのゴルフ競技である。ラフに潜むポッカリと口をあけた穴のような窪地に苦闘する選手が続出した。松山選手もその一人だった。動物が掘った穴にボールが入った場合は無罰で救済される。が、自然の窪みに救済はない。

袋状に縫い合わせた牛の革に羽を入れて突き固めたフェザリーボールだった頃、クラブはホッケーのスティックのようにL字にカーブした木製のロングノーズヘッドが主流だった。運悪く穴に留まったボールを脱出させる目的に鉄のヘッドを持つクラブが生まれた。フェースを凹ませるアイデアなど、往時のゴルファーが穴に苦慮していたことを物語る。フェザリーは簡単に破れるうえに手作りで高額だった。鉄のクラブが進化することはなかった。

時代は唐突に変わる。1850年頃、ガッタパーチャという樹脂から作られたボールが登場した。金型で成型できるため、大量で安価に作れるうえに硬くて重く、遠くへ飛ぶ可能性を秘めていた。クラブが進化を始めた。ウッドのフェースには、牛の角や皮など異素材がはめ込まれ、重心深度を深めるために形も丸くなり、底部を守る金属が重心を低くした。飛距離の時代が訪れたのである。時は産業革命。鉄のクラブに再び脚光が当たったのは必然だった。ゴルフが時代の息吹と共に進化を始めたのである。

スポーツは変化の中で常に進化し発展する。選手達はその中から新しい物語を紡ぎ出す。ありがとう! 次はL.A.だ。

 

内本浩史(うちもとひろし)
BUZZ GOLF 主筆

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