1. HOME
  2. 連載
  3. 今月のゴルフ愛 最後の一滴「シャフトとシフト」
連載

今月のゴルフ愛 最後の一滴「シャフトとシフト」

連載

変化は突然にやってきて、安住する人達を迷わせる。

ゴルフ誕生から500年ほどは木製シャフトの時代であった。クルミ科のヒッコリーはその代表格である。

20世紀を迎える頃、軽量で弾性に富み耐久性に優れる金属シャフトが登場した。世界を覆う戦火が特殊鋼を生み、金属加工技術を格段に進歩させた。変化に躊躇したゴルフ界は、クラブの形状と製法を伝統の盾として使用を禁じた。

先に動いたのは米国USGAだった。合理性と産業育成に勝機を見て1924年に金属シャフトを解禁した。実態は、その弾道にゴルファーの血が騒いだからだろう。一方、R&Aは「大西洋を渡らせるな!」を合言葉に禁止薬物を取り締まるような規制を続けた。既存業者に対する忖度臭が漂う。

ここで大事件が勃発する。

世界恐慌の年となった1929年、R&Aの元キャプテンであり、後の英国王となるエドワード8世は、スチールシャフトが装着された米国製の最新クラブを持ってセントアンドリュースで開催された競技に現れた。本来はプレーすら許されない。王子は現場の混乱をよそに冷めた視線のままプレーを終え、スコアカードを無言で提出してコースをあとにした。R&Aは体面を保つため失格だけを宣言し、直後に緊急会議を開いた。

年が明けR&Aの新キャプテンに就任した後の英国王ジョージ6世(故エリザベス女王の父)は、堂々と金属シャフトのクラブでティショットを放った。それから10年を待たずにヒッコリーは衰退する。その後も素材革命は続くが、素材を理由とする規制は行われていない。巨大産業に転じたのだから。

結局、王子の無言の抗議も虚しく英国は乗り遅れた。現在、英国発の有力なクラブメーカーは存在しない。産業は一瞬で動く。AIやEVシフトなど次々に起きる産業構造の転換が日本に及ぼす影響は?

どうか、手遅れになりませんように。(祈)

 
内本浩史(うちもとひろし)
BUZZ GOLF 主筆
  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。