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今月のゴルフ愛 最後の一滴「タイパの向かう側。」

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 「タイパが悪い」「コスパが悪い」。これは、某大学での講義後に学生たちがレポートに綴った、ゴルフへの率直な感覚である。

広大な土地を使うゴルフは、今も昔も道具とプレーにお金がかかる。結果、ゴルフは単なる遊びの領域を超えて巨大な産業となった。

日本経済が成長を極めた時代、「24時間戦う」ための「効率化とコスト削減」が課題であった。僅かに残された「自分の時間」がオッサンたちとのゴルフに奪われても文句など言えなかった。おかげで今、ゴルフを楽しめている。

現代の若者が「タイパ」や「コスパ」を語るとき、それは自身の生活と質が軸であり、その明快さには羨ましさすら覚える。

「勉強しなさい!」と親に叱られ続けた中高生の頃、勉強しているフリをしては、マンガや本を読んでいた。中学ではSFや戦記モノに夢中になり、高校で司馬遼太郎に出会う。『竜馬がゆく』全八巻の読破に何か月要したかは忘れた。でも、その時間潰しが生き方に影響した。

スマホの時代がAIの時代に向かっている。よくわからないことに忙殺されても、AIを使えば細かい真偽はさておき、要点だけは押さえられる。AIに「竜馬がゆく」を要約させれば832文字に収まった。

先日、御年82歳になるKさんと、オホーツク海を眺めながらゴルフを楽しんだ。趣味はゴルフと小唄。どちらも玄人はだしである。「タイパ」も「コスパ」も割り込まない時間の積み重ねが人をつくる。クラブを持って颯爽と歩く後ろ姿に高倉健さんの背中を見た。

モノに触れ、本を読み、人に出会い、共に過ごし、助け、助けられる。そのどれもが豊かな体験になる。アンチエイジングとは、注いだ時間に応じた副産物だと思えた。若い人達には、「タイパ」や「コスパ」の先に、「ライフパフォーマンス」──つまり、“生き方”という視点をほんの少しだけでも加えてもらいたい。

以上をもって全講義、閉講とさせていただきます。

 

内本浩史(うちもとひろし)
BUZZ GOLF 主筆

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